地震に強い、免震構造のラック式倉庫
地震に強い、免震構造のラック式倉庫 ~物流システムのリスクを最小化~
1995年の阪神淡路大震災により、ラック式倉庫では格納物の落下が大きな問題となりました。この結果から当社では、格納物の落下抑制対策としてラック式倉庫に適した免震構造の開発に着手、現在3件の構築実績を持っています。
開発当初は多数の引合いがあったものの実績が3件という数字にとどまったのは、震災直後の危機意識が風化してしまったことが大きな要因といえるでしょう。ただ、昨年以降各地で発生した大地震により、ラック式倉庫の格納物落下による被害が数多く報告され、物流現場では改めて落下対策が注目されています。
格納物の落下抑制対策として大きな効果を発揮し、導入企業からも高い評価を頂いている当社の「免震ラック」についてご紹介します。
1. ラック式倉庫の宿命
ラック式倉庫では格納物が棚板などに載せられているだけで固定されていません。このため地震によりラックが振動すると格納物は次第に滑り出し、大きな地震で滑り量が増幅されると棚板から落下する恐れがあります。また、格納物がパレットの上に段積みされたカートンの場合、積み方によっては中小の地震でもカートンが落下することがあります。これらの地震振動による格納物の落下現象(写真1)はラック式倉庫の宿命と言わざるを得ません。
阪神淡路大震災をはじめとする昨今の大地震においても、格納物の落下という被害は、程度の大小はありますが度々報告されています。その反面、ラックの構造体としての被害報告はほとんどありません。これはラック独自の制振効果によるものです。
ラック独自の制振効果とは、格納物の滑りまたは落下により、振動系の有効質量が低減されることで固有周期が刻々と変化し、地震動との共振が回避されること。そして、格納物の滑り摩擦で地震エネルギーが吸収されることにより、ラック構造体には一定以上の大きな力は作用しないというものです(図1)。つまり、ラック式倉庫の宿命である格納物の滑りや落下が、結果として地震からラック構造体を守っていると言えるのです。
これらの現象については1980年、加藤勉教授(東京大学)と山内博之氏(建設省建築研究所)のご指導の下に、(社)日本産業機械工業会で振動実験を実施し確認を行いました。

- 写真1. カートンの落下の様子

- 図1. カートンの落下の様子
2. 開発の背景
阪神淡路大震災を被った当社のラック式倉庫では、ラック独自の制振効果により建て替えや改修を行わなくても建物としての継続利用は可能でした。しかし、庫内で落下した格納物は、荷の搬出入を担うスタッカークレーン「ラックマスター」の通路を遮り、走行ができなくなりました。建物としては利用が可能でも、物流システムとしては全く機能しない“箱”と化してしまったのです。
箱から健全なシステムへ復旧するためには、落下した格納物をすべて庫外に搬出しなければならず、膨大な費用と時間が必要でした。その主な原因は人手作業が主体であったこと、ラック内部にスペースの余裕がなく作業効率が非常に悪かったことなどがあげられます。とりわけ冷凍倉庫においては過酷な温度環境の中での作業となり、さらに作業効率は悪化したようです。
格納物の落下は、その商品価値の損失はもちろんのこと、システム復旧に費やす費用・時間の損失、さらには復旧期間中の営業機会をも損失させます。特に医薬や食品などを扱う業種では、災害時において緊急に必要となる商品を扱うため、社会的な使命を果たすことも出来なくなります。
当社は、阪神淡路大震災での被害を教訓として受け止められた食品流通業A社様から、格納物の落下対策についてご相談を受けたことを契機に、免震ラック開発への取り組みを本格的に開始しました。
3. 免震構造の考え方
免震構造は、20世紀初頭から行われていた橋脚の防振技術を応用、建物を地動から絶縁したいとするさまざまな試みから考案されました。現在、ボールベアリングを敷設する方式や、積層ゴムを土台とした方式などが実用化されています。
これらの方式は、建物と地面との縁を切れば地震力は伝わらないという発想から生まれています。究極のアイデアとしては磁気浮上ですが、精密機械の除振装置としては実用化されているものの、建築物の磁気浮上となると現在ではまだ手が届かない夢の話です。
図2に示すように、一般建築物で用いられる免震構造では、建物基礎と上部構造との間に免震装置によって構成される免震層が設けられます。免震層の役割は、●柔軟に変形し復元するバネ特性により構造物系基本周期を2~3秒程度のやや長周期域に移し、短周期が卓越する地震動との共振現象を回避させること、また、●免震層部分に大きな減衰性能を持たせて地震動による入力エネルギーを吸収し、上部構造へのエネルギー伝達を低減させることにあります。
このように免震層に求められる性能としては、上部構造の荷重を支える「支持性能」、地震時に基礎とは別に変形できる「変形性能」、地震後には元の位置に戻る「復元性能」、地震エネルギーを吸収する「減衰性能」が必要となります。

- 図2. 免震の仕組み

- 図3. 免震ラックの概念
4. 免震ラックのしくみ
免震ラック式倉庫も一般の建築物と同様、土間や構造スラブなどの床(建築床)の上にアイソレーターという装置で支持された鉄骨床組造の床(免震床)を設けて二重床とし、その免震床の上にラックを
構築します(図3)。アイソレーターには低摩擦ボールベアリング式支承を採用し、360度の柔軟な
水平移動を可能とするとともに、支承の移動方向に軽い上り勾配を付けることで、最終的には原点に
復元するようにしています。ボールの入ったすり鉢を揺らすとボールはすり鉢の中を転がりますが、
揺らすのを止めるとボールはやがてすり鉢の底に戻るようなイメージです。
ラック式倉庫の場合はほぼ完全に元の位置に戻らないと、免震部分の搬送システムと非免震部分の
搬送システムの間にズレが生じて移載に支障をきたす可能性があるため、システムを継続利用する
ためにも「復元性能」は重要となります。その点では、上部構造の自重により原点に戻る低摩擦ボール
ベアリング式の支承は、ラック倉庫に適した免震装置であると考えています。
また、もう1つの仕掛けとして、地震エネルギーを吸収するダンパーを設けます。ダンパーには摩擦
減衰を利用した摩擦ダンパーや、粘性減衰を利用したオイルダンパーを用いています。
このようにアイソレーターやダンパーなどを組み込んだ免震ラックは、地震時には免震床とラック、
およびラックマスターが一体となり、短周期で“グラグラ”と揺れる建築床とは切り離されて“ユラユラ”
とソフトに揺れます。このためラックに格納された品物は極めて落下しにくくなるのです。
5. 免震ラックの効果
免震ラックの効果については開発時に基礎実験などを実施して確認し、そこで得られた免震層の特性をもとに、個別の案件ごとにラックの地震応答解析を行い「免震効果の目安」をつかみます。
免震効果は免震時と非免震時のラックの応答加速度を比較して表します。図4に示すグラフは、最近起きている震度6強~7相当(400gal)の地震の解析結果の一例です。通常ラックに比べて応答加速度がラック最上部では5分の1に低減され、最大値でも300galを下回るまでに低減されています。前述した1980年の振動実験から、ラック式倉庫では応答加速度を300gal以下に抑えておけば、不安定なものを除き大抵の格納物は落下を抑制できると考えています。
地震応答解析に用いる地震波については過去に観測されたものを使うため、実際にその場所でその時に起きる地震動の特性とは必ずしも一致しません。地震波は震源や伝播する地盤、さらに建設地の地盤性状により異なる特性を示すからです。
また、ラック式倉庫の場合は格納物の充実率や格納状態などによって、ラック式倉庫自体の構造特性が変化します。このため解析に用いる構造特性と、実際の地震時における構造特性が必ずしも一致するわけではないのです。しかし、それらの不確定な要素をカバーするため、解析には特性の異なる複数の観測地震波を用い、ラックの格納パターンを変えたケーススタディーを行うことで、さまざまなケースについて効果を確認して「免震効果の目安」をつかむようにしています。

- 図4. 震度6強~7相当の地震応答解析
実際の地震発生により効果が確認されたのは、当社の納入第1号となるA社様の倉庫でした。2005年7月23日に関東地方で発生した千葉県北西部地震において、A社様の近隣倉庫では格納物の落下現象があったようですが、A社様の倉庫では全く被害が出ませんでした。A社様の倉庫には免震効果の検証を行うために稼働以来、地震加速度記録計を設置していたため、当日の加速度記録から免震の効果を確認できました。
この地震により同倉庫周辺では震度4~5弱の揺れが観測されました。図5は同倉庫でラック倉庫が設置されている建物の4階床面、免震床面、ラック頂部の3カ所・3方向の地震加速度記録の最大値を示しています。
普通に床面と固定されたラックの場合、床面の揺れが構築物の頂部では3倍前後に増幅されますが、図5の観測記録ではどの方向においても4階床面と比較してラック頂部の加速度の方が小さな値となっています。また、地震後の目視確認において、免震装置上に稼働以来薄く堆積した埃が、免震装置が移動した軌跡部分だけ掃われていたことや、残留変位計測計が原点を示していたことから、実際の地震動により免震層が水平移動した後に元の位置に戻ったものと考えられます。
これらの結果から、免震ラックが機能し免震効果が十分に発揮されたと言えるでしょう。

- 図5. 千葉県北西部地震におけるA社様倉庫の地震加速度
6. 導入企業に学ぶ採用理由
免震ラックの導入企業は、前述の食品流通業A社様のほか、医薬品卸業、電気機器製造業の3社様です。3社様に共通しているのは、「非常時でも提供する必要がある商品を扱う」ことと、「非常時でも商品を提供し続ける」とする社会的責任を果たそうとする姿勢です。また、商品価値の損失、復旧時間・費用の損失などのリスクを回避したいという強い意欲がうかがえます。
この考えは企業のCSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)の一貫として捉えられるもの。企業経営において「災害時におけるBCP(Business Continuity Plan : 事業継続計画)」など、リスクマネジメントの手法として、大規模災害などの危機に直面した際にどのように事業を継続するかという具体的な計画をもつことが、必要不可欠になってきているからです。
阪神淡路大震災からはや10年。2004年10月の新潟県中越地震、2005年3月の福岡県西方沖地震、さらに8月の宮城県沖地震と相次いで大規模な地震発生を受け、防災意識・リスク対策意識はさらに高まってきています。免震ラックは地震におけるリスク回避・災害時におけるBCPの有効なツールの1つとして、今後改めて注目されるものと思われます。
7. 今後の展望
現在、落下防止対策としては2つの方式しかありません。免震ラックは、格納物の落下抑制対策としては現状では最も効果の高い方式です。ただ、なかなか最終的な導入には至りません。その障害となっているのは投資費用が大きいことです。一方、非常に安価に導入できる落下防止対策としては、従来からあるパレットストッパがあります。これは棚板などに10mm程度の立ち上がりを設けて、パレットが棚から滑り出さないようにする方式ですが、格納物がパレットごと落ちることを止めるためのものであり、パレット上のカートンには何ら効果はありません。
物流現場での危機管理意識がますます高まる中、当社では今後、地震対策メニューを複数用意することで、それぞれのお客さまのニーズに合った対策が選択できるようにしていく方針です。それが、お客さまの企業活動のリスクマネジメントに貢献するとともに、マテハントップメーカーとしての社会的責任だと考えるからです。すでに免震ラックとパレットストッパの中間的な選択肢として簡易制振ラックの商品化に着手しており、近々ビル式ラック用に採用して販売を開始する予定です。これは免震ラックほどの効果は期待できませんが、比較的低コストで、それなりの効果が期待できるという位置付けの商品です。さらに、ユニット式ラック用の制振機構についても商品化すべく開発をスタートしました。
<Daifuku News No.178 (2005.12)より>

